top of page

税理士と社労士の業務範囲:無資格業務のリスクと境界線

  • 執筆者の写真: rainbowwave48
    rainbowwave48
  • 11月6日
  • 読了時間: 4分

2025年10月、社会保険労務士(社労士)の資格がないにもかかわらず、有償で社労士の業務を行ったとして、税理士が社労士法違反の容疑で逮捕されるという衝撃的な事件が報じられました。


顧問先の企業から「労務のことも税理士にまとめてお願いしたい」と頼まれ、サービスの一環として対応しているケースもあるかもしれません。しかし、どこからが法律違反になるのでしょうか。


この事件を機に、税理士と社労士の業務の境界線、特に税理士が行ってはいけない社労士の「独占業務」について、改めて確認することが重要です。


1. 社労士の「独占業務」とは?


社会保険労務士法は、社労士(または社労士法人)でなければ報酬を得て行ってはならない「独占業務」を定めています。主なものは以下の通りです。


・申請書等の作成(第2条1号)…労働社会保険諸法令に基づく申請書、届出書、報告書などを作成する業務。


・申請書等の提出代行(第2条1号の2)…作成した書類を、事業主に代わって行政機関に提出する業務。


・事務代理(第2条1号の3)…労働社会保険に関する申請や調査、処分などについて、事業主の代理として主張や陳述を行う業務。


・帳簿書類の作成(第2条2号)…労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類(賃金台帳、出勤簿など)を作成する業務。


今回の逮捕事件は、この独占業務である労働保険の申告代行などを、社労士資格のない税理士が有償で行った疑いが持たれたものです。


2. 税理士の「付随業務」の範囲


税理士は、税理士法に基づく「税務」の専門家です。 もちろん、税務に関連して社労士の領域に触れることもあります。これは「税額の計算・確定に直接必要な範囲に限る『付随業務』」として認められています。


しかし、重要なのはその「範囲」です。 2002年に日本税理士会連合会と全国社会保険労務士会連合会が交わした確認書により、以下の点が明確にされています。


・「提出代行」「事務代理」は付随業務に含まれない(=税理士はできない)。


・「年末調整」は税理士の本来業務である(逆に社労士が有償で行うと税理士法違反になる)。


つまり、税理士が税務のために社会保険料の情報を扱うことはあっても、社会保険の「申請書を作成」したり「提出を代行」したりする業務は、たとえ顧問先のためであっても、有償で行えば違法となります。


3. 実践!このケースはOK? NG?


業務の境界について、具体的なケースで確認してみましょう。


【ケース1】税理士が「算定基礎届」「月額変更届」を作成 → NG

理由:社労士の独占業務(第2条1号)です。


【ケース2】税理士が「給与計算のみ」を請け負う → OK

理由:給与計算(集計、控除計算、明細発行)自体は独占業務ではありません。ただし、そこから派生して上記の届出書作成などに踏み込むとNGとなります。


【ケース3】税理士が「年末調整・法定調書」を作成・提出 → OK

理由:これらは税理士の本来業務です。


【ケース4】社労士が「年末調整・法定調書」を作成・提出 → NG

理由:税務業務であるため、社労士はできません。


【ケース5】税理士「雇用関係助成金」の申請書を作成・提出 → NG

理由:助成金の申請書作成および提出代行も、社労士の独占業務です。


【ケース6】「就業規則」の作成受託と労働基準監督署への届出を一括依頼 → NG

理由:就業規則の「届出書(変更届)」の作成・提出は独占業務です。


4. まとめ:知らなかったでは済まされない業務の境界


中小企業では、税理士が経営者の身近な相談相手として、労務関連の相談を受けることも多いのが実情です。


しかし、良かれと思って行った業務が、実は「無資格の社労士業務」に該当し、法律違反となるリスクが潜んでいます。特に、労働保険の申告、社会保険の手続き(算定基礎届など)、助成金申請などは、明確に社労士の独占業務とされています。


「知らなかった」「サービスの一環だった」では済まされない問題です。税理士と社労士、それぞれの専門性を尊重し、法律で定められた業務の境界を正しく理解することが、顧問先企業と自事務所の双方を守ることに繋がります。


安永会計事務所と安永社会保険労務士事務所は顧問先の健全の発展のために、お互いの業務区分を侵害せずに連携して適切なサービスを提供いたします。

 


 
 
 

コメント


掲載内容の一部又は全部について無断転用・転載を禁止いたします。copyright©2025 安永 CPA OFFICE all rights reserved.

安永会計事務所

【事務所住所】

〒810-0073 福岡県福岡市中央区舞鶴3丁目2-5 アイビル3階 地下鉄赤坂駅近く 

​​


 

安永社会保険労務士事務所

【事務所住所】

〒814-0165 福岡市早良区次郎丸3丁目19番 地下鉄次郎丸駅から徒歩7分 (室見川・木の葉モール橋本近く)

      

​​


 

(下記のgoogle mapの場所は事務所近くの駐車場です。社会保険労務士事務所と駐車場は別の住所です。)

bottom of page